着物豆知識集

古いお着物の直し方

着物よ永遠(とわ)に

「一つのお品を永く大事に使う」それが着物の楽しみ方です。

色や柄の美しさもさることながら
一つのお品を長く大事に使うことの出来るのがお着物の楽しさです。

何年かたってしばらく着ていなかったお品を更めて見直してみたり、
お母様やお婆様の着物や帯(女性だけでなく男性のお着物でも)を寸法を直して着てみたりすると
また着物に対する自分のこだわりが広がるのではないでしょうか。

 

古いお襦袢を生かす道
古いお着物を生かす道
古いお羽織を生かす道

古いお襦袢を生かす道

 お襦袢は一番体に近いところでお召しになりますので汗や体の油分などがどうしても残りやすくなります。

 その時は気にならなくても、後々になって変色したりといった事があるのではないのでしょうか。
 礼装用の白い襦袢や薄色の襦袢は、色変わりが目だったり黄色く変色が出て来たりすると、そのまま箪笥に眠ってしまうことも少なくないと思います。
 

生け洗い

 生け洗いは、部分的な染み抜きでなく着物を丸ごとお洗いする洗い方です。
お洋服と違い、仕立てや加工は非常に繊細に出来ておりますので、大きい洗濯機で洗う様にはもちろんゆかず、着物に付いた汚れに応じて丁寧に洗ってゆきます。

 絹物ですので水に通すことには気を使わなければなりませんが、着た後にハンガーに掛けておいただけでは飛ばない汚れや(着物に大敵な湿気はこれが一番ですが)部分的な染み抜きでは抜ききれない全体に広がった汗や油分などはこうした生け洗いの方法をとるのが良いかと思います。

 着る度に生け洗いする必要はありませんが、自分で大分汚れたなと思うときや長いことお手入れしていないときには、シーズンの変わり目などに一度してみてくださいませ。
 

袖口の汚れのひどいとき

 襦袢に限らず、お着物類は衿、袖口、裾が一番汚れやすい部分です。

 襦袢の場合、衿は半衿を取り替えることで奇麗にすることが出来ますし(化繊の半衿を使っていればご自分できれいに洗うことも出来ます。)裾はお着物よりも短めになりますので、まだ気になりませんが一番着になるのは、袖口の汚れではないでしょうか。

 袖口は着る度に肌とすれますので、自然と汚れが付きやすくなります。
洋服のワイシャツやブラウスでも、一番汚れやすかったり、ほころびやすかったりするはずです。

袖口の汚れは、着た後にたっぷりとしたベンジンで拭いて汚れをとることが出来ます。
(ご自分で汚れを拭くときには、汚れている所を ちょこちょこと拭くのでなくたっぷりとしたベンジンで広い範囲をお手入れすることが後々輪ジミが残ったりしないコツです。)

 着物は気を使いながらしまいますが、お襦袢は以外と簡単にしまってしまう事が有りますので汚れたまましまっているうちに、黒く残ったり、茶色い変色した汚れが取れなくなってしまうことがあります。
 お母様の古い襦袢を頂くと、そうなっていう事が多いかと思います。

あまり汚れのひどいときには、袖の仕立てをほどいて袖付けと袖口を入れ替えてお仕立てし直します。
仕立ての跡は筋が残ることもありますが、着た時の袖口は今まで縫込みのなかだった所が出ますのできれいにお召しになれます。
 

染め替え

 古い全体に汚れが付いて生け洗いでもきれいにならない襦袢や色が黄ばんでしまった礼装用の白い襦袢などは、思いきってお染め替えするのも一つの方法です。
 

 和服は仕立て上がりをほどいて縫直すと、元の1反の反物に戻りますので、もう一度一から染め直すことが出来ます。

 少し濃い目の色に染めればちょっとした黄ばみやシミも目立たなくなりますので普段お店では売っていないような洒落色を選んで染めて紬や小紋などの普段着の下に着るお洒落襦袢にするのも楽しいかと思います。

(実際、染め屋さんや問屋さんでもちょっと変わった洒落色の襦袢は少ないので私どもの店でも、着物に合わせたりお客様のお好みで新しい白い襦袢をお染めしてからお仕立てすることもあります。)

染め直した生地を袖だけ晒の肌着に付けて「うそつき」の襦袢を作ることも出来ます。
元の襦袢の袖と両身頃をそれぞれ違う色に染めて3色のうそつき襦袢にすることも出来ます。

 

古いお着物を生かす道

お着物は皆さん注意しながらお召しになっているはずです。
それでも汚れてしまう時はありますよね。
逆に「汚しちゃいけない」といつも思いながら着ていても窮屈なだけでちっとも楽しくないはずです。

着物はお召し物ですから汚れるのは仕方有りません。

そのかわり汚れた時にはちゃんとお手入れをしておくことが大事です。
絹はデリケートな素材ですので、放っておくと汚れが落ちなくなることもあります。 丁寧にお手入れさえしておけば永く大事に楽しめるはずです。
 

染み抜き

着物に付いたちょっとした汚れは染み抜きして落します。

衿や袖口などの汚れはご自分で落とすことも出来ますが
(ご自分でのお手入れの仕方は、「自分で出来る着物の手入れ」のページでご案内いたします。)
柄の上や、無地場などの染み抜きは専門の職人の染み抜きをお勧め致します。

 染み抜きは、付いたシミの性質により(水で落ちやすいものだったり、揮発性の溶液で落ちやすいものだったり、と
落とし方の方法も色々有ります。)使う道具や薬剤を替えながら、染み抜きしてゆきます。

 強い汚れが柄の上に付いている時には、下の地色や柄の色ごと汚れを強めの薬で抜いてしまいます。
(あまり強過ぎる薬だと生地が痛むこともあるので状況に応じて加減しながら致します。)
その上でもう一度最初の柄通りに、色をさし、箔を置きといった加工を施して仕上げてゆきます。

 洋服のクリーニング店でも着物の洗いはしておりますが全体的な汚れは落ちても、
こうした緻密なお直しは出来ないかと思いますので注意を払いながらのお手入れが大事かと思います。


 染めのお着物は先に書いたような手順できつい汚れも落とせますが、問題なのは細かい絣柄の紬のお着物です。

 紬の柄出しに使われる絣は糸の1本1本を縞々に染めその組み合わせで柄を織り出します。
そのため強い薬を使い糸の絣が抜けてしまうと元に戻すためには糸を1本づつ染めなければなりませんが織り上がった生地ではそれが出来ませんので、あまり強い染み抜きが出来ません。
 本来一番普段着の紬ですので、汚れやすいのは当然ですが特に薄色のものは、着た後に気を付けて汚れをあまり放っておかない方が良いでしょう。

 同じように、江戸小紋やろうけつの吹雪等のお品も強い染み抜きがしにくいのであまり汚れたままお時間がたたないようにお気を付けくださいませ。
 

生け洗い

 生け洗いは、部分的な染み抜きでなく着物を丸ごとお洗いする洗い方です。
お洋服と違い、仕立てや加工は非常に繊細に出来ておりますので、着物に付いた汚れに応じて丁寧に洗ってゆきます。

 着た後にハンガーに掛けておいただけでは飛ばない汚れや(着物に大敵な湿気はこれが一番ですが)
部分的な染み抜きでは抜ききれない全体に広がった汗や油分などは
こうした生け洗いの方法をとるのが良いかと思います。

 着る度に生け洗いする必要はありませんが、自分で大分汚れたなと思うときや長いことお手入れしていないときには、シーズンの変わり目などに一度してみてくださいませ。
 

洗い張り

 お着物を一度全部といて、反物に戻してから、全体を洗いお仕立てし直します。
 普段着に着ている着物を相当汚れるまで着てしまってから洗い張りすることが多いです。

 汚れを落とすためには先に書いた「生け洗い」をすることが多いですが寸法を直すためにお仕立てし直したり、裾まわしや胴裏を取り替えるときには一度ほどきますので、洗い張りをしてからお仕立て致します。
 

衿の汚れのひどいとき  衿の切り替え

 着物の衿は、もっとも汚れやすいところです。
女性の場合はファンデーションなどが付きやすいですし夏のものは汗もかきますので、何回か着ていると必ず汚れてきます。

 着た後のお手入れはご自分でもできますが汚れやすいところゆえ、長い間着ているお着物は染み抜き等では落ちきらない、色褪せた感じのシミが衿山に筋のように残ることがあります。
 古いお着物を頂いた時には、残っている衿の汚れが気になることも多いはずです。

 着物の衿は、主衿と共衿(かけ衿とも言います)の二つのパーツから出来ています。
主衿は5尺5寸から6尺くらいの長さで、その上にちょうど首に当たる所へ2尺5寸位の共衿がかけてあります。

 この共衿は汚れた衿をかけ替える事で、着物を長く着るためとも言われておりこの共衿の分を残布で残すように仕立てる事もしていたようです。
(衿は反物の半巾で使いますので、その用に残布を残すと最初に仕立てている分と合わせ、3回分の共衿が使えます。)

 その代わり、このようにたっぷり残布を残すと、全体の総丈が短くなりますので、身頃の縫い込みが少なくなりお嬢さんに譲って身丈を延ばそうとしても出来ないという事も多いので私共の店ではなるべく残布よりは身頃の縫い込み(内揚げとも言います)に使うようにしております。
 

 その残布として共衿が無いときには、今付いている「衿を切り替え」て仕立てます。

主衿から共衿の長さの分を切り離します。そこへ古い汚れた共衿を縫い付け先ほど切り離した生地を共衿として、その上から縫い付けます。

 そこまでで出来た衿は、きれいな共衿がかかり、その代わり古い汚れた部分が共衿の端に出てきていますので、その汚れた方を着物の下前側(右側)になるようにして仕立てます。
 そうすることで、広げた時には汚れた部分が見えますが、着てしまえば汚れは下に隠れて着物姿はきれいな所だけが出るようになります。
 洗い張りの時に、ご一緒にしてみてください。
 

胴裏に茶色いシミが出てしまったとき

 着物は色を染めてから余分な染料を落としたり、伏せ糊を落としたりするために、何回も水を通して洗いますが、胴裏の生地は織り上がったそのままの生地のため生糸ののりけもそのまま残っておりますので、着物にシミは出ていなくても、胴裏には茶色い点々のシミが沢山という事が古いお着物には良くあります。

 生地が変色しているだけですので気にせず着てしまえば着られないことはありませんが、やはり着ていても落ち着かないという時には一度ほどいて、表を洗い張りして、新しい胴裏に取り替えてお仕立て直します。

 古いお着物で八掛の色がどうも気に入らない時はこの時に八掛も取り替えて、自分なりの組み合わせで楽しむのが良いと思います。
 古い八掛も生地さえ弱っていなければ
(弱っている生地は爪の先でつねってみると裂けてくるはずです)
とっておけば、またいつか役に立つはずです。
(八掛として使うのでなくとも、足し布にしたり使い道は何かとあります。)

 せっかく古い着物をもらったのに、洗い張りしたり胴裏を新調したりじゃちょっと費用がかかりすぎるかな、と言う時には袖の胴裏だけを取り替えることも出来ます。

 身頃の胴裏は着れば外からは見えませんが袖の胴裏は振り口や袖口からちらちらと見えることもあります。
そこで、袖だけほどいて、胴裏を取り替えてお仕立て直すと外から見える部分は新しい白い胴裏が見えますので着ていてもあまり古いお品だとは分からないはずです。

 古いお品にどれくらい手をかけるかはそのかたによって様々ですが、色々な方法があることを覚えておかれると、役に立つはずです。
 

裄の足りない着物を着たいとき

 最近は皆さん身長や体系に比べて、裄(洋服で言う袖丈)が大分長くなってきています。
 着物の裄は、腕を下斜め45度に伸ばして袖口が腕のくるぶしの所に来るのがちょうどですが、手を前で組んだりするとにょきっと腕が出ているように感じられるようです。
(襦袢や羽織の裄は着物の裄寸法を基準に出したり控えたりします。)

 その様な理由から、裄を長め長めにとの御注文もありますが洋服のときは、手の甲にかかるくらいの丈で着ることもありますが着物の裄はあまり長くすると、ドアのノブや取っ手に引っかけやすくなりますので先ほどのちょうど良い寸法にしておくのがよいでしょう。

 頂いたお着物を着る時には、裄が足りないこともあります。
その時は、袖付けをほどいて元の仕立ての筋を消し、裄の寸法を伸ばして袖付けを仕立て直します。

 この時注意することは、裄の縫い込が伸ばす分だけあるかどうかと伸ばした跡がきれいに消えるかということです。
 縫い込みは指先で触れば、どのくらいあるかすぐ分かるはずです。
 仕立ての跡は、縫い込みの外と内でが色が変わっていることや筋がきつく残っていることなどがあります。
 生地や色柄で直しやすいものと、難しいものが有りますので少し試しに袖付けをほどいてみて、確認してからほどきます。

 裄を伸ばすときのもう一つの注意点は
同じ裄寸法でも、人により肩巾と袖巾のバランスが違う事もあるということです。

 このバランスが着物と襦袢であまり違うと振りや身八つから襦袢が出たりすることがあります。
ぴったり合っていても、表の生地の素材や地風で襦袢が出ることもありますが、(表の生地がかための生地だとつっぱって下の襦袢が出やすくなることなどもあります)
あまり気になるときは、更めて寸法を見てみるとよいでしょう。
 

丈の足りないお着物を着たいとき  足し布

 お着物は身丈が長い分には融通をきかせて着ることが出来ます。
 お母様のお着物やお人から頂いたお着物を着るときに一番困るのは身丈の足りないときです。

 以前は着物は(特に普段着は)短めに皆さんお召しになっていました。
最近ではたとえ普段着といえど着物を着るときにはドレッシーな雰囲気にお召しになりますので、すこし長めのお召し方が多いようです。

 又、最近の女性の体系は昔に比べ、足が長くなりウエストの高さが高くなってきています。その為、同じ身長でも腰紐の位置も上になりおはしょりが長めに必要になりますので、身丈も長めに要るようになります。
「娘と同じ身長なのに、娘が着ると身丈が足りない。」といったお話しもよく伺います。

 腰紐の位置を低めに締めれば、短い着物でも着ることが出来ますがよっぽど着慣れた方でないと、着にくいはずです。
 短めのお着物は、一度ほどいて筋消しか洗い張りをしてから身丈を長くしてお仕立てし直します。

 この時注意が必要なのは、まず着物に縫い込み(内揚げといいます)があるかどうかを確認することです。着物をほどいて仕立て直すときは一番裾は生地の目もみだれてきていますので5分から1寸(2~4センチ)ほど切り落として行きます。そのため、内揚げが無い着物は仕立て直す度に身丈が短くなって行くことになります。

 表の内揚げが十分にあるときには、裏を見て胴裏と裾回しの縫いしろが表と同じように十分あるか確かめます。延ばす丈の分と、裾を切り落とす分が縫いしろの中に無ければなりません。
 それが足りないときには、胴裏か裾回しを取り替えるか、胴裏と裾回しのあいだに、足し布をして仕立てます。

 表の内揚げが十分でないときには、胴に足し布をして身丈を延ばしてお仕立てします。

 2寸(7~8センチ)位の伸ばしですむときは身八つ口の少し下、ちょうど帯の胴巻の下に隠れる所に足し布をしてお仕立てします。
 帯の下に隠れますので、きた時に外からは見えませんので表と違う色の生地でも大丈夫ですが、表の色に合わせて短い生地を染めて足すこともあります。

 上の足し布の仕方ではまだ短い場合は、衿先の少し上 、着物のおはしょりの下に隠れる位置に足し布をします。この足し方だと4寸(15センチ)位の長さを足すことも出来ます。
 この場合は、着方や紐の位置でおはしょりの出し方がずれると足し布が見えることもありますので、あらかじめその方の腰紐の位置とおはしょりの位置をしっかり決めてから足し布の位置を決めます。
 

上前の膝前の汚れのひどいとき  天地の切り替え

 着物で知らず知らずのうちに汚れてくるのは膝前の身頃でしょう。すわると自然と手を置くところですし食事をしていても、汚しやすい場所です。

 小紋や紬など柄の位置あわせがないお着物のときには洗い張りするときに、胸の帯下にはいる位置で身頃に鋏を入れ上前の身頃と下前の身頃を入れ替えてお仕立て致します。

 お着物の直し方としては、かなり最後のほうの方法になるかと思います。
 

道行きコートや羽織への、お仕立て直し

 小紋のお着物などは、着物で着るのに飽きてしまったり派手目になってきたりしたら、道行きコートや羽織にお仕立てすることが出来ます。

 袖と身頃はそのまま使いますが、コートの立て衿は着物の衽を使ってお仕立て致します。

 通常コートの立て衿は一反巾の生地を半分におって仕立てておりますが着物の衽は半巾に裁ってお仕立てしてありますのでコートに仕立て直すときは裏地を当ててお仕立て致します。
 外から見たときには分からないように仕立てますが実際は衿は本来のお仕立てと異なります。

 もう着ないと思っていた着物でも、以外と生かせる道もありますので無駄にしないで、色々と検討してみてください。
 

染め替え

 前にも書きましたが、着物はほどいて端縫い合わせると再び一反の反物にもどりますので、また一から染め直すことが出来ます。

 染め直しには大きく分けて「もとの染めを生かしながら直す方法」と「色を抜いて白生地に戻してから染め直す方法」が有ります。

 もとの染めを生かしながら染め替えるには、
①もとの柄などを染まらないように糊でふせた上で染める方法と
②全体に上からちがう色をかけてしまう方法があります。

 ①の方法は、もとの柄を生かせて地色だけ替える事が出来ますが以前に比べると手間の代が大変高くなり、一から染めるくらいの費用がかかることもありますので、最近ではだいぶ少なくなっています。

 ②の方法は、生地の上から違う色を全体にかけてしまいますので手間や費用はそれほどかかりませんが、出来上がりの色合いは実際に染めて見ないとはっきりと分からないため、思ったとおりに染めるのが難しいところがあります。
 また、柄の上からも色がかぶってしまいますので、地の雰囲気以上に柄の雰囲気は変わってしまいます。
 この方法では、染物にするより、白やベージュ、グレーといった薄色の紬に紺、緑、紫といった濃い目の色をかけて、染め直すことが実際には多いです。
絣の白めはきえてしまいますが、黄変や色変わりを隠したりも出来ます。

 染め替えで一番多いのは、一度もとの色を抜いて白生地に戻す方法です。
きれいに色が抜けていれば、無地に染め直すことも出来ますし
(ただし薄色でなく、濃い色目を選んだほうが間違いないはずです。)
少々前の色柄が残っても、小付けの小紋柄などを染めればあまり目立たなくなります。

 染め替える時の注意点は、色や柄以上に、生地のすれなどが染め替えると目立ってくる点です。白くきれいに色が抜けても生地にすれなどの傷があると、染め直してから色のむらや白っぽいすれになって出てきます。一度ほどいて色を抜いてから駄目でしたでは、勿体ないので事前に染め直しがどの程度可能か、よく職人さんと相談してからしなければなりません。

 場合によっては、生地の裏と表を逆にして染め直したりも致しますが綸子の生地の場合は、雰囲気が変わることもあるので注意しながら致します。
(以外と表裏を逆にしてよい感じになることもあるので、面白いところです。)

 生地から色を抜くときは、どうしても少々は生地を痛めることにはなります。

もとの生地にもよりますが、やはりしっかりした生地のお品は染め替えしても良い仕立て上がりとなりますので、お買いお求めになる時に、まず生地のしっかりしたお品を選んでおくことは永くお着物を大事にする上で、大事なポイントとなります。

 また、丈を長く仕立て直すときには縫い込があるかどうかなどをちゃんと調べてから加工にかかるように気を付けなければなりません。
 

江戸褄などに白い点々(かび)が出てきたとき

 ご結婚式の直前になって、黒の江戸褄に白い点々と付いてしまいあわててお持ちになる方が時々あります。
 さあ着ようと思って久振りに箪笥から出すと、一面に白いぽつぽつがあってびっくりされてしまうのです。

 湿気っぽいまま長い間しまっておいて、カビが白い点々となって出てきているのです。いつも着るわけではなく、色も濃いために江戸褄や喪服はこのカビの汚れが目立ってしまいます。

 これは生け洗いして水を通して洗えば大抵はきれいになります。
生け洗いは多少お時間もかかりますので、念の為に着用が決まっているときはしばらくまえに一度出して、見ておいたほうがよいです。

 また長い間着ないでいて樟脳の匂いなどが取れなくなってしまった時も全体をお洗いすることでずいぶん良くなります。

  着た時に十分風を通してからおしまい頂くのが、一番良い予防法です。
 

江戸褄、色留袖の比翼が汚れてしまったとき

 江戸褄や色留袖には昔の襲着の名残で比翼が付いています。
 比翼は衿、袖口、振り口、衽から裾にかけてと外から見える部分に、白い羽二重で襲着風にもう一枚着ている様にお仕立てしてあります。

 白い羽二重で仕立ててありますので、汚れやすいところでもあります。お着物と同じように袖口は汚れが目立ちやすく、染み抜きを時々していてもなかなか汚れが落ち切らなくなってきます。
 汚れが落ち切らないときは、袖口の比翼を新しく取り替えてしまいます。袖口だけ新しくなって、振り口と白さが違って気になる時には振り口も一緒に取り替えます。

 袖や振り口は独立して付いておりますので、取り替えることも出来ますが衿の比翼は衽や裾の比翼につながっておりますので、そこだけかえることも出来ません
 その時には、白い羽二重を衿の比翼の上からかけてしまうことがあります。

 比翼の衿は着物の衿と同じように、主衿と共衿がありますが上からかけるときには各々にかけることは出来ないので、全体に新しい羽二重をかけてしまいます。
 主衿と共衿の境がなく白い伊達衿の様になり、多少変則的なお直しの仕方ですがあまり目立たないのと、衿元でお顔に近いところがきれいな白になりますのでお召し頂くとだいぶきれいになりますので、この方法をとることもあります。
 

「お羽織を生かす道」

 お羽織は、道行きコートに仕立て直すことが出来ます。

 羽織とコートの大きな違いは、衿の形と共に、脇にまちがあるかどうか、という点があります。
 羽織の衿は衿先から反対の衿先まで、並巾のまま折って使ってありますので広げて裁てばコートの立衿として使えます。(逆にコートの衿を羽織に直すと途中に縫い目が入ってしまいますので使うことが出来ません。)
 また羽織にはまちがありますが、コートには無いので、やはり羽織からコートのお直しは出来ますが、逆はお仕立てが出来ません。

 お直しする時の注意点としては、
先ほど書いたように折ってあった衿を広げて使いますので衿の折れ目に汚れや筋が残って無いかということです。
 羽織のままだと目立ちませんが直すと目立つ時もあるので注意が必要です。

 以前は短めの羽織をお召しになることも多かったので羽織の丈を延ばしてコートやもう一度羽織にお仕立て直しということもあります。

 丈を延ばす時には、身頃の引き返しと、羽裏の縫い込みが十分に有るかが大事ですが身丈は十分でも、衿の縫い込みが無いこともありますので十分に注意してください。
 ほどいてしまったは良いけれど、結局寸法が変えられないと言うことになってしまいます。

 羽織の裏を変えることでイメージを変えたり、身頃の前後を変えて紋付き羽織の紋を隠すことなども出来ます。

 お羽織は、普段着のお着物にはとっても重要なお洒落のポイントになります。是非大事に使って見てください。

 

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